農地の遺産分割 について弁護士が解説
ここでは,農地を相続する場合に焦点を当てて説明します。
1 農地法の適用を受ける「農地」とは?
農地法とは,簡単に説明すると「耕作者の地位の安定と国内農業生産の増大を図り,もって国民に対する食料の安定供給の確保に質することを目的」とする法律です(農地法第1条)。この農地法の適用を受ける「農地」とは,「耕作の目的に供される土地」と定義されております。
2 農地を取得する場合
(1)原則許可が必要
農地に賃借権などを設定したり,売買などにより所有権を移転したりする場合には,原則農業委員会の許可が必要となっています(法第3条第1項)。これに違反した場合は,「三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金」に処せられることもあります(法第64条)。
(2)相続や遺産分割の場合
ただし,農地を相続や遺産分割を原因とする権利移転が行われる場合には,例外的に農地法の許可は必要ありません(法第3条第1項12号)。
そのため,被相続人名義の農地について,複数人の相続人の間で遺産分割協議を行い,相続人の一人が単独で農地を取得するということになった場合には,農業委員会の許可をとることは必要とされていません。もっとも,被相続人名義の登記を取得した相続人名義の登記に変更する所有権移転登記手続はしなければなりません(なお,不動産登記法の改正により,相続登記の申請が義務化されました(令和6年4月1日施行))。
(3)遺贈の場合
遺贈とは,遺言者が遺言で自分の財産の一部又は全部を無償で他人に贈与することをいいますが,これによる権利移転の場合には注意が必要です。農地法の許可が必要な場合と,不要な場合があるからです。
「包括遺贈又は相続人に対する特定遺贈」の場合には許可は不要ですが,それ以外の場合には許可が必要です。遺贈を受ける場合にはその遺贈がどういうものなのか,よく理解する必要があります。
3 農地を取得したくない場合
以上は相続により農地を取得することを前提とする場合の説明でしたが,そもそも農地を取得したくない,取得せずにすむにはどうしたらいいか,そういったお悩みをお持ちの方は少なくないと思います。
その場合には,家庭裁判所に相続放棄の申立てを行うという方法が考えられます。この場合,注意が必要なのは相続放棄の申述には期間制限があるということです。相続放棄を希望される方は「自己のために相続の開始があったことを知った時三箇月以内」(民法第915条)までに被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して相続放棄の申述を行うようにされてください。
弊所でも相続放棄のご相談を多く承っておりますので,お気軽にご相談ください。
以上